第227章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(14)
楽しみだった文化祭。
二人でいっぱい写真撮ろうねって、いっぱい模擬店、休憩時間に回ろうねって……話していたのが、全部夢だったみたいに、バラバラと崩れていく。
肩を押さたまま、家康は床についていた膝を浮かせると……
「それ以上……」
ギリッギリッと、
奥歯を強く擦り合わせ……
「……それ以上っ!ひまりに触れるなっ!!」
血が完全に上ったように、目の前で転がった椅子を蹴り飛ばした。
「どうやらまだ、意味を理解してないようだな。声を出すなと、何度も親切に言ってやったのに…………やれ」
(え……)
急に頬にひんやりとした感触。
「っ!!!!」
「良いか。女にこれ以上、怖い思いさせたくなかったら……声を抑えて、黙って殴られてろ」
薄暗い中でも、家康の顔が歪むのが見えて……
「形勢逆転ってヤツ〜」
ドカッ!!
「顔はなるべく避けろよ。後々、厄介だからな」
ドンッ!!
腹部や背中を何度も殴られて座り込んだ家康。なのに、二人はすぐに立たせ、羽交い締めにして、また拳を振り下ろす。
「っ…………」
家康は息さえも押し殺して、無抵抗で殴られ続けるのを見て……
胸が張り裂けそうになる。
「んん、んんっ!(やめて、やめてっ!)」
私の為に、私が人質になんてなってるから。もがいてもがいて、背後から脚や腰を触られ続けても、必死に手を伸ばす。
(や、めてっ…もう、やめて…っお願いっ!!)
蹲る直前、
家康は微かに首を振った。
俺は良いから。
大人しくしてて……。
聴こえるはずない声が……
まるで、心の中で呟かれたような……
優しい家康の声が、胸に届いた。