第227章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(14)
薄暗い室内。
明かりはすべて消され、ぴっちり閉められたカーテンの隙間からは、僅かに光の筋さえも漏れていなくて、暗闇を際だたせる窓の重厚なカーテンは、ただ暗闇を際立たせる役目しか、果たしていない。
重苦しい空気だけが、広がり……
昼間だと頭では理解しても、この異様な空気、室内が、もうとてもじゃないけど、今が文化祭の最中だなんて思えなくて……
「ひまりを離せ」
静寂を裂く家康のドスの効いた声。
(家康……)
殺気立ったその声を聞けば、どれぐらい怒りを帯びているかが、伝わり……今すぐ、側に駆け寄りたい衝動にかられる。
じりっと一歩、一歩、歩みを進める姿に……
「んんっ!んんっ!(家康っ!家康っ!)
言葉にならない声で名前を呼び、手を思わず伸ばすと、すぐに背後からがっちりと片腕が周り、両腕は脇の横で固定される。
家康は男が取り出した物を見て、
「ッチ……わかってんの?それ、少しでも使ったら……俺、本気であんたを許さないよ」
吐き捨てるように舌打ちして、
暗闇の中で瞳を鋭く光らせた。
「なら動くな。少しでも声を出したら……その時は、この女に罰を与えるからな」
「んんんんんっ!!(逃げて逃げてっ!)」
目先で光る銀色の刃先。
カチカチと耳につく音に、斜めの刃が徐々に姿を現すと、家康の登場により気づかない間に、薄まっていた恐怖が、 また私の中で嫌というほど姿を現した。
暖房も付いていない空き教室。
ドレス一枚で背後から、触られたくない男の人に抱きしめられ、温もりどころか嫌悪感に襲われるだけ。
ガタガタと今、寒さに襲われたように脚から震えだして、ぽろぽろと瞳からは生温い涙から、唯一、熱を感じて……
(家康っ!!後ろっ!!)
ぼやけた視界に映り込んだ、二人。