第227章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(14)
机で死角になり、
入り口付近の様子が全く見えない。
それでも、
「ぐっ!!」
「がはっ!!」
呻き声を上げた二人。
「……もう、一人はどこだ」
家康の威圧感がある低い声が、静かに空き教室に響き、私の耳にははっきり届いた。
もう一人。
その台詞から、ここに三人居るのが初めからわかっていた事が読み取れる。それでも、ここに来てくれた……それに、嬉しさと悲しさが混ざりあったものが、胸に突きあがるのを感じて……
(ごめんなさいっ)
ちょっとしたヤキモチ。
一緒に着いてきてって、言えば良かったのに。真っ直ぐ教室に向かえば良かったのに。
わざわざ回って、人けの少ない空き教室の前を通ってしまった自分を、悔いても悔やみきれない。
ぎゅっと閉じた目から、はらはらと涙が流れる。すると、口を塞いで手にも伝わったのか、一瞬だけピクリと動く。
「……今から、泣いてどうする?」
耳を掠める息みたいな声。
「強いのは、弓道だけじゃないみたいだな。念の為、弱みを人質としてとっといて、良かったぜ」
頬から流れる涙を逆流させるように、無骨な指が動き、気持ち悪い。家康の指とは違う。そう考えただけで、余計に目からは涙が次から次に、溢れた。
ここまでして……
一体、この人達は家康にどんな恨みが。
無愛想な所はあるけど、決して人に危害を加えたり、嫌がらせをしたりはしない。でも、ここまでするぐらいだから、ただのやっかみや妬みだけじゃない気がする。
「ひまりはどこだっ!!」
まるで、怒りの感情を爆発させた声。
家康の張り上げた言葉に、背後の男の人は……
「……声を出すな。この女が大事ならな」
「んんんっ!!(離してっ!)」
私を立ち上がらせ、盾のようにして……
家康との距離を取った。