第227章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(14)
ロッカーの中。
狭くて暗くて……
不安に押しつぶされそうになる。
一分は経った?もう十分は経った?
時間の感覚も腕の感覚も消えて、不安と恐怖に押し潰されて、呼吸もまともに出来ない。
「大人しく出てこい」
「ブレザー無くなってたぜ!」
「俺らは、入口付近に潜んで待機してる。女も限界が近いだろう」
震えだす手。
僅かな扉の隙間にあるくぼみ。
そこに爪をたて、ぎりぎりと歯を食い縛り、全身の力を指に注いで耐える。
(家康…っ。…来ちゃだめっ…んっ…)
限界……
けどその言葉に反応したみたいに、腕はだんだん麻痺。今、力を入れてるのか、入れてないのか……引っ張られているのか、押されているのかさえも、もう分からない。
「……誰かっ!助けてっ!!」
最後の抵抗。
扉の向こう。その更に向こうの廊下にまで届くように、声を張り上げる。なのに、木霊したように、ロッカーの中で自分の声が響き渡るだけで、叫んでも叫んでも、何かに吸収されていくように、思った以上の声になっていない気がする。
(もし、何も知らずに一人で来たらっ!!)
自分では長く感じた時間。
でも、ガッっと凄い力が外側から加わるのを感じた途端……私の身体はロッカーから飛び出して、その勢いで再びドサッと、埃っぽい床の上に落ちる。
最初と同じ状況。
「おいっ……」
扉の付近に潜んでいた一人が、
顔を横に動かして何かの合図。
その直後に微かに聞こえた、足音。
「いえやっ……!んんっ!!」
無理矢理その場に立たされ、
体の自由も声も奪われる。
近づく足音。
「ひまりっ!!」
私を呼ぶ声。
(だめっ!!)
光が僅かに入り込む。