第226章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(13)
空き教室の前。
落ちていたブレザーを、拾う。
そして壁に耳を当て、
中の様子を探ると……
ダァン!!
ダンダンダンッ、ダンダンッ!!
拳を数回、叩きつけた。
扉に近づく足音。
そして、
ドンッ!
「お、おいっ!」
パタパタと走る、足音。
バンッ!
何かが勢い良く閉まる音を、確認。
そして、
ブレザーを肩にパサっと掛け……
中にいる男達が扉を開ける前に、
サッと黒いマント翻す。
爽やかに揺れる、甘栗色の髪。
その場から立ち去ると……
持ち主の元へと向かった。
薄っすら開いた扉。
「誰もいねーし!何だ?通りぎわに、壁でも殴っていったのか?」
「ストレス発散か?……ん?」
そして、気づく。
ブレザーが無くなっている事に。
「お前ら、早く女をどうにかしろ」
中から取っ手を掴み、開けられないように、必死に耐えていたひまり。
男も力任せに強引には出来ない理由があり、手こずる。
もし目立つ音を立てれば、……家康が来る前に他の者に気づかれる可能が高い。そう考え、鈍くガンガンと鳴りやすいロッカーの音を気にして、外側から取っ手部分を掴み引いていた。
「ブレザー無くなってたからよ。徳川、その内に来るかもな」
「それまでに、女を……。ったく。か弱そうに見えて舐めてたが、割に力あるな」
弓道部で鍛えた腕力と、必死な思い。
心細くなるぐらい、狭い空間の中で耐える。
(携帯もブレザーの中……どうしよう……)
咄嗟に、入り込んだロッカー。
どんなに頑張ろうが、もって数分。
しかし例え、一分一秒でも……
愛する者以外の男に触れられたくない。
その想いだけは、強かった。