第224章 天邪鬼の愛~中紅花~(11)弓乃×政宗様編
振り返って。
目が合って。
今すぐ無理やりにでも、
例え嫌がっても怒られても……
その胸に飛び込みたいけど……
涙が出るより先に、
(ほんと。私の告白は、最後まで邪魔されちゃうわけ?)
顔は勝手気ままに動いて、
困ったり笑ったり。
でも、隔てた壁にそっと手をついて、
顔を上げれば……
「……聞いてやるから、言え」
その声の後に、うっすらと柔らかな皺が浮かんだのを、私は見逃さなかった。ほくそ笑んだ自信があるような顔。その表情に胸がぐっとつかえる。
悔しいような、でも嬉しいような。
背伸びをすれば届く政宗の顔は、
私の心を擽って掴んで揺らす。
繋がる視線。
「政宗……」
名前呼べば、更に視線は強く繋がる。
見えないもので、引っ張り合うように。
「弓乃……」
名前を呼ばれれば、胸がドキンとして一遍に頭がのぼせる。実際には数秒足らずの時間が、長い時が音を立てて流れつづけたように感じた。
「っ……」
後ろにまだある気配。
人前で告白とか……
恋愛初心者に何させる気。
何を言わせる気。
相変わらずの私が、前に出てくる前に……
今、この瞬間。
私はヒロインになる。
一度だけ、大きく息を吸う。
ちょっと油断したら飛び出すんじゃないかと思う程、ばくばくと激しく鼓動を打つ心臓。それを、胸の前で両手を握り、グッと抑え込んで……
恥ずかしくて逃げだしそうな足。
勇気を使って、その場に縫い付けて……
告白予行練習。
じゃない。
本番の告白。
素直な私。
そのまんまの私。
この瞬間だけ。
政宗の為だけに。
そんな、魔法の呪文を心で唱えて……
真っ直ぐに、青い瞳を見た。