第222章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(9)弓乃×政宗様編
中学の、確か今頃だったな。
クリスマス前の直前、校舎裏にサクラに呼び出されたのは……。
紅葉が終わり、殺風景になった桜の木の下。ゆっくり振り返り、呼び出した理由をぽつりぽつり、サクラは喋り出した。
「……ダメかな?」
「いきなり彼氏のフリしろとか言われて……はい。そーですか。って、俺が返事すると思うか?」
しかも、理由が好きな男を振り向かせる為とか。理由が下らな過ぎて、俺は頭を抱える。
「……だよね。……ごめんね!本当!今のは忘れて!」
手を顔の前で合わせ、
サクラは、年下の俺に頭を下げ気まずそうに笑う。部活の先輩、後輩。それだけの関係だったが……部活中以外は、敬語は一切使わず気軽に話すぐらい仲は良かった。サクラは、男子から人気は高い。見た目の華やかなイメージと打って変わり、中身が何処か抜けていて、言わば天然ってヤツだ。
その気取らない感じが、親近感を持たせ……憧れている男は少なくねえ。
「……してやるよ。フリ」
深刻そうな顔を見て、口は動いていた。他にも、頼むヤツぐらい居たはずの中、俺に頼んできたぐらいだ。悪い気はしねえ。
「え……。本当にいいの?」
「あぁ。で?誰なんだ。……好きなヤツ」
そう聞けば、サクラを口を重くしてそれは言えないと首を振り……
「……彼氏が出来たって言えば。ちょっとは、意識してくれるかもしれないから」
悲しげに目を伏せるだけ。
まだ中学二年の冬のはじめ。楽しけれりゃ、それで良い。この頃の俺は、ぎゃぁぎゃぁ騒がしいだけの同年代の女にはうんざり気味で、その点サクラが相手なら悪い気はしねえ。
ちょっとした興味本位。
けど、好きな女に変わるのに……そう、時間は掛からず、気づけば目で追うようになっていた。
目で追って、目で追い始め……
「まさか。お前が、好きなヤツ……」
「う、ん。先生。先生なの……」
気づく。サクラが好きなヤツが誰なのか。研修生で来ていた、若い男。サクラの担任だった。