第221章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(8)※弓乃×政宗様
家康の優しい重み。
心は大分落ち着いたが、ひまりの表情はやはりすぐれない。
(ゆっちゃんにも、こんな歯痒い想いを私はさせて……)
それでも、いつも見せてくれた明るい笑顔、聞かせてくれた元気な声。
それを思い出して、ぺちぺちと乾いた音を立て頬を軽く叩き、気合いを入れる。さっき一つ、気になったのは、弓乃の後を少し遅れ、追いかけるように横切ったサッカー部の男子。
文化祭前にその男子に弓乃が廊下に呼び出されていた事は、知っていた。しかし、教室に戻ってきた弓乃は何事もなかったかのように、普段どおり振るまっていたのだ。
(……一体、何があったんだろう)
政宗は居ないみたいだし……。
姿を探すようにキョロキョロと首を動かして、辺りを見回す。
「家康?ちょっと、教室見て……!!」
顔を教室側に向けたまま、隣に居るはずであろう家康の服をクイッと、引っ張ろうと手を伸ばす。
しかし……
手は空振り……
隣から忽然と姿を消していた。
代わりに、
「可愛い〜。編み込みしてる〜〜」
廊下の壁側から猫撫で声。
その声に反応して視線を移せば……
そこには、
「ねぇ、ねぇ。君、超タイプなんだけど」
「お店の呼び込み?君が一緒なら行くよ〜〜」
「勝手にさわっ……」
不機嫌極まりない顔を浮かべ、黒いマントを翻す家康の姿。
ヴァンパイヤに群がる、花の女子大生数人。胸元が大きく開いたニットを着て、グイグイと迫っている光景が目に入り、ひまりはポカーンと口を開けた後……
くるっ!
(もう〜〜こんな時に!)
決して家康が悪い訳ではないが……
頬を膨らませ、背中を向ける。
「ちょ!ひまり!!」
(聞こえないもんっ!!)
肩に掛けて家康のブレザーが、ずり落ちないように掴み、パタパタと走り去るひまり。
教室へと一目散に走った。