第47章 「恋の和歌集(11)家康様編」
電車を降りると、その場で立往生している学生達で改札口は溢れていた。
あの図書館の日のように黒い雲が渦を巻きながら、空に広がっていて。
降り注ぐ雨の向こう側に、
雷電の光が山の方に走るのが、一瞬見える。
「ちょっと、狭いけど入って」
折りたたみ傘を開くと家康がヒョイとそれを掴み、私の肩を引き寄せ……
「俺は良いから、ひまりだけちゃんと入ってなよ」
傘を私の方に寄せ、歩き出した家康。
ぎゅっと鞄を肩にかけ直し下を向きながら、足を動かす。
肩に置かれた手に、つい意識が集中してしまう。
相合傘なんて……
中学生以来。
確か、アレは二年生の時だったよね?
今みたいに梅雨入りしたばかりの。
その時の事を思い出して、思わず吹き出し笑いをしてしまう。すると、家康はすぐ間近で何?って私を見下ろしていて……。
ドキドキと鼓動が鳴り出す。
(あの時は、目線がそんなに変わらなかったからかな)
こんな風に見上げること、なかったのに。
「ちょっと、昔のこと思い出してて」
「……まさか。相合傘した時のこととか、言わないでよ」
「ふふっ。だって……次の日、家康すっごい必死に」
「……煩い。あの時はまだ、チビでガキだったから仕方ないし」
「可愛かったけどね?」
「怒られたいの?」
家康は途端に眉間に皺を寄せ、
目の前にしかめっ面が広がる。
怒られると分かっていても、私はクスクスと笑いが止まらなくて、口を手で覆った。
(でも、こんな風に歩くのも減らさないと)
昼間、呼び出された時のことが頭を掠める。
考えただけで、淋しいなんて……
(やっぱり長い月日、一緒に居たからかな)
チクリと痛む胸に気づかないフリをして、私達は狭い傘の中で思い出話を咲かせ、家に向かった。
「……忠告した日に早々、ほんと邪魔な女」
ギリッ。
すれ違いざまに呟かれた声。
完全に雨音に混じり、私は聞き過ごしていた。