第219章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(6)弓乃編
プリンのデコレーション。
それが一通り終わってもまだ、
姿を見せない政宗。
開店、五分前。
「凄く可愛いね!」
パタパタとブレザーを羽織りながら、ひまりは私の隣まで来ると、出来上がったプリンをまじまじと見つめ、笑う。
「まぁね!なかなかの出来栄えかな!」
思ってもみないこと、口にした途端。ひまりの眉が微かに下がり、何か言いたそうにもごもごと口を動かした後、きゅっと結び……
私の腕に巻き付いた。
「ゆっちゃん!政宗に衣装!渡しに行こう!ふふっ。早く見たい!」
「でもさぁ……。何気に私とお揃いだし。嫌がるかも」
珍しくポロリと零した弱気な発言。
頭に付けた赤いリボンのカチューシャが、ずっしり重く感じで、ガクッと頭が下がる。
ひまりには、昨日の話は少しだけした。少しというか普通に「元カノが可愛かった」って、報告。ひまりも元カノがいたことは初耳だったみたいで、普通に驚いてたけど……。
はぁ……。呼吸するみたいに出る溜息。あんなに気合い入っていた私は、どっかに消えてなくなったみたいに、朝から気づけば溜息ばっかり。
「ゆっちゃん……」
「何かさ。今までも、私が告白しそうな雰囲気になると誤魔化されたり、その先は言わさない!って感じでさ。……やっぱり、そう言う事なのかなって……」
手に持っていた絞り袋。絞り口からぽたぽたと、生クリームが溢れる。
それをただ、
じっと見つめ口を閉ざす。
今までのことを振り返った瞬間。そんな気がして、仕方なかった。周りから絶対両思いとか言われて、実はちょっと調子に乗って、期待していた自分。
そうかもって。
遊園地ではじめてキスされて。
屋上でキスされて。
期待するなって方が無理。
でも、元カノ。
何処と無くひまりに似ていた。