第218章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(5)
駅前のショーウィンドウの前。
そのガラスの向こうに広がる、光景。
足は無意識に吸い寄せられ……
瞳は見開き、全面に取り込む。
(今月のドレスも素敵……)
月ごとに変わるドレス。
十一月の今は……
ブルーとグレーの二種類のチュール素材を使用したエンパイアドレス。
胸元のお花が可愛い印象にして、横向きになったマネキンが裾の長さを見せるように飾られていた。
いつもつい立ち止まってしまう。
「ひまり。ドレス好きなの?」
隣から声を掛けられて、
反射的に顔が動く。
信康くんの背後。
ちょっとだけ離れた場所に家康が、携帯を耳に当て背中を向けているのが、視界に入る。
「他に必要な物あるなら、言って」
思っていたより予算があまったから、クラスの子に買い足すものがないか確認しているような会話が聞こえ……
私は信康くんに視線を戻して、頷く。
「進路はね。デザイン専門学校の進学を希望にしてるんだ」
「そうなの?そう言えば、明日の衣装もさっき手作りって、話してたね」
「小さい頃から、裁縫が好きでね!はじめて、本格的に作ったのはくまの縫いぐるみなんだけど」
へぇ……凄いね。信康くんの感心したような声を聞いて、私はまだまだこんな素敵なドレスを作れる腕にはほど遠いと、ガラスに指をさして笑う。
(でも、いつか……。必ず夢を叶えて……もう、一つの夢を……)
約束を。
ーー楽しみにしてる。俺だけの為の、ウェデイングドレス姿。
シーツに身を包んだ時。
私に向けられた、優しい笑顔。
つい、ハジメテの時に家康に言われた台詞を思い出してしまい、赤面しかけて手をパタパタ動かし、顔を仰ぐ。信康くんにどうしたの?って、聞かれても誤魔化して、私はガラスにくっ付き、熱くなった頬の熱を冷やした。