第216章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(3)
転校初日の放課後。
学校から電車移動。
駅前に着き、すぐさまバス停に向かう。
バス停に着くと鞄から書物を取り出して、立ち読み。暫くすると山行きのバスが来る。
「お待たせいたしました」
運転手のアナウンスを聞きながら、俺はバスに乗り込み、後ろドア付近の手すりにつかまって立った。俺はあまり座るのは好きじゃない。バスは乗り始めはすいていることもあるが、終点に近づくにつれて人が増えていき、最終的には自由に動きやすいスペースは、ここ。
(と、言っても。俺の家は最終だから座っても別に問題はない)
ただ、単に立っている方が落ち着く。
バスで揺られながら、長い道のり。
かれこれ、一時間半は乗り。
赤い鳥居を潜る頃には、夜空には月が浮かぶ。
「おい、信康。お前、本気で毎日あの距離を通うわけ?」
「この神社は、俺らが番してやるから近場で借り住まいでもしたら?」
「お前らに任せたら、後々厄介になるだろ」
頭上から降りてくる悪戯好きの、神使い。長い尻尾を怪しげに揺らめかせ、軽い身のこなしでストンと地上に下りる。
現に俺が戦国学園に潜り込む為、転校、編入という架空の手続きをあちこちで行なっている間に、勝手な行動で指示なく書物と文は盗みに入るは……これ以上、目を離すと厄介なことになり兼ねない。
ーー信康くんは、何か部活入る予定ある?もし良かったら、また弓道部の見学に来てね!
帰り際のひまりの言葉が頭に過ぎり、俺は軽く笑みを零すと脇に抱えていた書物から栞を抜き取ろうとした時……
カサッ。
風もない中、
近くの草木から人の気配と、
微かな木の葉の木擦れ合う音。
翠玉、天鏡はすぐさまそれに反応。
跡形もなく姿を消す。
俺は書物を素早くブレザーの中にしまい、何事もなかったように素知らぬ態度で境内の中へ……足を進めた。