第215章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(2)
あたりに流れる重苦しい空気。
緊張した深い静けさのようなものが流れ、私は暫く動けずにいた。
(何で、不機嫌なんだろう)
家康の不機嫌な理由。それがさっぱり分からない。肌質の細かい家康の顔に出来た眉間の皺を見ながら、私も自分の眉を寄せる。
頬に添えられた手。
ちょっと顔を動かそうものなら、すぐに包み込むような力が働いて、信康くんの姿が一切、見えない。と、いうか見させて貰えないって言う表現が正解かも。
(さっきまでは、優しかったのに)
じっーと無言で視線を送りつける。
でも、家康の目線の先は、
私じゃなくて……
「駄目かな?まだ、気軽に頼める人いないから」
信康くんに向けられている。
そして、信康くんにの言葉はどう聞いても家康にじゃなくて、私に向けられたもの。
「ちょっと待ってね!家康!これだと、話せないよっ」
「話さなくていい」
トントン胸を叩いたり、ジタバタ腕を突っ張ってもがいても、一向に離してくれなくて……もう、本当に訳がわからない。
(もうっ!こうなったら……)
唯一、自由の利いた手。
人差し指指で、ツンツンッ。
横腹を突っつくと……
ビクッと反射的に腰を動かす家康。
「何やってんの?」明らかに目でそう訴えられて、負けじと「離してくれないと、もう一回やるよ!」と、頬を膨らませる。
お互い目と表情で、
会話をしていると……
プッ。
突如、聞こえた吹き出し笑い。
「ぷっ、くっ……ごめん。二人、仲が良いんだね」
「仲良いって。見て分かんない?」
「ほら、もうっ!転校初日なのに感じ悪いよっ。ごめんね?」
家康もその笑い声に、一瞬だけ気が緩んだみたいで、腰に回っていた腕から力が抜ける。その隙に素早く身体を動かして、信康くんの正面に向け謝った。