第215章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(2)
更に深く刻まれた眉間のシワ。
「答えるまで離さない」
吸い込まれるぐらい、息が止まるぐらい綺麗な翡翠の中に私の顔が映る。
(答えるまでって……)
こんなに近くで、瞬きも落とせないような距離で、真っ直ぐに視線を注がれて、胸が苦しいぐらい締め付けられる。周りの音が一切聞こえなくなるような空間が出来上がって……家康は呼吸一つ、溜息一つで私の心を震わせた。
「……はぁ。何で、もう名前で呼んでるわけ?」
「それは、好きに呼んでくれたら良いから……って。それに、信康くんも私のことひまりって呼ぶから、下の名前の方がお互い気兼ねなくて済むかなって思って……」
語尾になる程、何故か声が自然と小さくなる。普通のこと言ってるだけなのに、家康の声と目が少し怒っているような気がして……
気のせいかな。
「あいつ。ひまりって呼んでるの」
「う、うん。ほら!前にぶつかった時に、家康が私の名前呼んだでしょ?マラソン大会にね、私も急に名前で呼ばれたから、あれ?ってなったんだけど!」
焦ったように口が滑る。
別に焦る必要なんてこれっぽっちもないのに、何だか尋問されているみたいな気がしてきて……
そう話した途端、
ピクリと片方だけつり上がる眉。
マラソン大会?どうやら、そこから説明しないと離して貰えそうにないことを悟り、思わずはにかみそうになった時だった。
「ひまり」
今まで家康の声以外、拾わなかった耳がその声だけははっきりと拾い、頭の中で響く。
その声の主に導かれるように、顔が反対方向に動きかけると、それを制止するように頬をクイッと押され、腰に回っていた腕がグッとくびれに食い込む。
「家康!!」
「ひまりに、何の用?」
「大した用じゃない。ただ、昼休みに校内の案内を頼めないかと思って」
そんなの、他のヤツに頼んだら?
家康は、不機嫌そうな声でボソッと呟く。