第214章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(1)〜
くじの結果は、廊下側の列の前から三番目。全員がくじを引き終わり、机を抱えて移動開始。新しい場所に机を置いて、静かに座る。
でも、私の表情は少し曇り気味。
視線は自然と窓際に向かって、動きそうになった時。
隣に座る、
信康くんに声を掛けられた。
「顔見知りのひまりが、隣の席で良かった。転校初日は、緊張するから。改めて宜しく」
「うん。私の方こそ宜しくね!神木くん?……信康くんでも良いかな?」
「好きに呼んでくれたら、良いから」
爽やかな笑顔。
それを見る限り、緊張しているようには見えない。でも普通に考えても転校って、いきなり新しい環境に変わるんだから、きっと不安や心配なことがいっぱいある筈。
「座席表に、自分の名前を書いておけ。……信康。まだ残っている手続きがある。後で、職員室に来い」
先生は簡単な連絡事項を話した後、教室から出る前に信康くんにそう告げ、私の頭に手を置く。
「……何を悄気ている。家康と席が離れたのが、それ程、寂しいか」
「先生……」
降りてきた、
先生の優しい手のぬくもり。
図星を突かれて、内心ドキッとしたけど、私は顔を上げて口は閉じたまま、笑顔だけ見せた。
(席替えぐらいで落ち込んでちゃ、だめだよね!もう、高校生なんだからっ!)
ただ……
「何か、ひまりに悪いことしちゃったかも。こっちの番号だったら、彼氏と隣の席になれたのに〜」
「……そう思うなら。今すぐ席、変わって」
まだ、皆んなが騒ぎ出す静かな時。
その会話だけが、離れた窓際から聞こえた。
やがて、新しい座席表を作成するために紙が順番に回されはじめた。そこに自分の名前を書き込んで、次の人へ回す。
席替えをしたことを忘れて、自分の席が分からなくなったりしないように、壁に貼られるための座席表。高校にもなって、それは大丈夫だとは思うけど。席替えして間もないと、うっかりする時もある。もちろん、それだけじゃなくて、他の教科の先生たちが、生徒たちの出欠状況が確認できるようにだった。