第214章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(1)〜
文化祭カウントダウンに入った。
ホームルームの朝。
織田先生がいつも通りに無言で入ってくる。そして挨拶よりも先に転校生の存在を明かした。皆んなは天音ちゃん以来の転校生にざわつき、誰かが何かを言うより先に、開いた扉。
教室に入ってきた、
一人の男子生徒の姿。
先生は、素早くチョークでスラスラと指を動かす。
そして、コトリとチョークを置く音が聞こえた瞬間……ゆっくり男子生徒の顔が正面に向いた。
黒板前にスラリと立ったのは……
それは、
「神木信康です。宜しく」
二回も出会ったあの男の子だった。
同じ年だった事を知り、凄く驚いて私は声が出なくて、ただ唖然としていると……
栗色の柔らかな髪を揺れる。
前髪で隠れた左目。
そして……
(あ……こっちに……)
窓際近くに移動した、赤い瞳。
ばっちりと目が合う。
それから、
ニコリと向けられた微笑。
(え……?私……?)
思わず人差し指を顎に付けると、信康くんは更に笑顔を濃くするのを見て、初対面でもないし、話もしたことがある気軽さから、反射的に私も笑顔を返した。
それから、席が家康の隣にしか空いてないからと急遽、始まったくじ引き。基本、席の隣は男女になる決まり。
今までは、先生の突然の思いつきで席替え。しかも、朝にいきなり黒板に席表が張り出される。一風変わったパターン。席替えをするのは、天音ちゃんが転校してきた新学期以来。
今回みたいに、クジ引きで席替えをするのは初めてで、皆んなは少しドキドキしていた。
「前の席のヤツから、引きに来い」
織田先生はくじを作って、順に引かせる。
「寒い時期だし、窓際はあたりたくねぇ」
「誰と隣かな?ドキドキだね〜〜」
皆んなは神妙な表情で、くじを次々に引いて、その結果に一喜一憂。片思いの相手の隣の席だと喜んでいる子がいるかと思えば、教室の一番前の席だと、嘆いている子も。
そして、私の番。
ドキドキしながら、
クジの箱に手を入れる。