第46章 「恋の和歌集(10)家康様編」
昼休みの校舎裏。
私はすっかり空腹なのも忘れ、
「……何の話ですか?」
痺れを切らし、先に口を開いた。
「あら?昨日はちょっと良いかな?とか言って、敬語なんか使わなかったじゃない?」
家康君の前だから、可愛こぶってたのかしら?と軽く指摘され、
「……話って何?」
私はもう一度、言い直した。
いつも呼び出されるのは、大体が忠告。
一年生の時、
家康に近づくなとか、
幼馴染だからって調子乗るなとか
それぐらいのレベル。
その度に負けじと言い返していたけど。
今回はいつもと少し違う気がする。
ファンクラブのリーダー的存在の築城さんからの呼び出しは初めてだし、今回は取り巻きの人数も多い。
ほんのちょっと、嫌味を言いに来ただけじゃなさそう。
私でもそれはわかる。
「案外気が強いのね?」
見た目と違って。
築城さんは、口端を指でトントン叩き影のある笑みを浮かべる。
顔立ちは整っていて綺麗なのに、彼女が持つ妖艶な雰囲気につい警戒心を募らせてしまう。
「家康君と仲良くしないでくれる?」
「仲良くも何も、家康とは幼馴染で」
「ねぇ?その幼馴染なんて、都合の良い理由やめてくれない?」
「都合の良いなんて!そんな言い方……っ」
そう思うのに、その先の言葉が出てこなくなる。
私自身、都合良くしてるつもりなんて
これっぽっちもないけど……
確かに一番頼りにしてて、
我儘言ったり、甘えているのは事実。
でも、それは別に
幼馴染だからじゃなくて……。
(じゃなくて……?)
自分の気持ちにそう問いかけた時、
「あんたがどう思ってんのかなんて、こっちには関係ないのよ!」
築城さんはスラリと伸びた脚を絡ませ真ん前に立つと、私の肩を凄い力で掴み……
ドンッ!
校舎の壁に押し付けた。