第212章 『意地悪なangel』
数秒後、家康は耳を疑う。
「そいつは違う。家康は俺だ。クッ、クッ……」
「何の冗談ですか、それ。……って。ひまりっ!?」
ふらっと床に足を下ろして、
立ち上がったひまり。
そして、次の瞬間。
家康はその光景を目にし、
息の根が止まるほどの衝撃。
光秀の両頬を包み、
「ねぇ、家康。何でもしてくれる?」
「クッ。それがお前の本音か?好きにしろ」
「なら〜〜……」
黒いズボンの膝の上に片足を乗せ、
甘い湿りっけのある声を出すひまり。
「はぁ!?ちょ!!何やってんの!?」
家康は蒼白な顔色を浮かべ、ガタンっと椅子をひっくり返しながら、立ち上がり後ろから剥ぎ取るように、ひまりを抱きかかえ、奈落へ突き落とされるような焦りを見せる。
眉を下げて、
「違うって!俺はこっち!」
声を張り上げ、必死に繕うが……
「え?こっち??」
暗示にかかっているのか……
もはや、彼氏の区別さえつかない。
一体何をひまりに吹き込んだのかと、捲し立てながら問いただす。光秀は、家康の慌てっぷりを愉しみ、喉奥を転がし続け……
「そいつは、偽物だ」
「家康は俺だし!!」
平然と嘘を付く光秀。
家康は完全に気が動転。ぎゅうぎゅう離すまいと、腕に力を込め……
(何でこんなことにっ)
もはや、冷静な自分は一切消えていた。
え?え?ひまりは振り返り、交互に家康と光秀を見て……首をかしげる。
「クッ。俺なら、お前の好きにしていいぞ」
「ほんと?なら〜〜」
「無理、無理、無理っ!!俺も何でもするし!何しても良いからっ!」
「……ほんと?」
家康は、首がもぎ取れそうなほど凄い勢いで頷く。
「ん〜どうしようかなぁ?」
可愛いらしく人差し指を顎に添え、吟味するようにひまりは二人を見比べた。