第212章 『意地悪なangel』
光秀の本番は、ここから。
これでひまりが暗示にかかりやすい体質なのは、実証されたと言い放ち、その意味に家康は只ならぬ不安を感じ取り、より一層自分の腕の中で目を閉じるひまりを、引き寄せる。
眠っているのか、
眠っていないのか。
取り敢えず、今は安らかな呼吸をして微動だしにしない。
「一体、何するつもりですか」
「クッ。お前は、変貌したと思っているが……案外、本来の姿かもしれん」
「……本来の?そんな訳ありません。一体。何年、幼馴染やってたと……」
家康は不機嫌そうに、言い返す。
光秀は「女は秘めてる時があるからな」と、企んだような微笑を浮かべ、ひまりの耳に口を寄せ、家康には聞こえない声量で何かを囁いた。
すると……
「ん…………」
ひまりの綺麗な長い睫毛が震え、瞼がふるふると揺れ動いた後、パチリと大きな瞳が開き、視界に家康を捉える。
(あ。起きた……)
何を光秀が囁いたのか、少し気になったがくるくると愛らしい瞳が、自分をじっーと、見つめる姿につい口元が綻ぶ。
それから、起き上がりたそうにもぞもぞと自分の腕の中で動くのに気づき、ひまりの半身を家康はゆっくり起き上がらせ……
(髪、乱れてるし)
少し乱れた髪。
指を絡ませ、
櫛で掬うように長い髪を整えた。
「家康??」
キョトンと自分の名を柔らかい声で呼び、上目遣いで見上げるひまり。光秀の前でもある今。元に戻ったのかどうかは定かではないが、血色がよくすべすべした肌を見る限り、リラックス効果は効いた様子。
何?そう優しく、
聞き返そうとした時だった。