第209章 『デートって何?』後編
ひまりは目を一度、閉じた後。安土城跡に向けていた顔をゆっくり動かす。そして、だぼだぼの裾から指先を出して、家康の服を掴み……
最初は緩く……
「徳川家康の存在を……誰よりもわかっていたんだと思う」
人神として、崇められるぐらい。
(偉大な人物だって……)
今度は強く……
握り潰すように掴んだ。
「ひまり……」
書物の歴史。習った歴史。
徳川家康が江戸時代を開いたことは、両方に伝えられている。それは、きっと歴史上の真実。
ぽすっ。ひまりはフードを被ったまま、家康の胸に頭を預ける。
「デート。家康と一緒なら、どこでも嬉しいよ。幸せだよ……。今日だって……だから……」
どこにもいかないでね。
何故、そんなことを言ったのか。泣きそうな声が出たのか。……ひまりは自分自身わからなかった。
「……どこにも行かないから」
安心しなよ。
家康はキツく腕を回す。
心なしか震えているような、そんな気がして、強く抱き締めた。
ひまりが安心するように。