第209章 『デートって何?』後編
帰りの下り道。
二人はてくてく歩きながら、三重の塔を横切り、石段を下り、仁王門を潜り平坦な道を暫く歩けば、入り口に戻る。
いつの間にか、日は落ちかけ……
真っ赤に染まった紅葉のように、赤いコンクリート。オレンジ色の田園……
地面でパタパタと片方の手だけが動く、頭でっかちな一つの影。
「ふふっ。あったかぁい」
(……想像以上かも)
自分のパーカーを着て、フードを被ったひまりの姿に、家康はこっそりとニヤける。
「……………」
「どうしたの?……ひまりが静かだと、落ち着かないんだけど」
「……ん?……今ね。戦国姫の気持ち。……ちょっと考えてた」
そう言って、
安土城跡がある方角に顔だけ向ける。
その横顔はどこか儚げで、息を呑むほど美しかった。
それがひどく落ち着かない気分にさせ、家康は即座に聞く。
「……戦国姫の気持ち?」
「うん……。あの時代は、普通にデート出来ないでしょ?だからどんな気持ちだったのかな?って」
足を止め、
遠くを見るように目を少し細める。
争いの絶えない戦国の世。
今の時代のように、溢れたデートスポット。遊園地や映画館などは勿論ない。唯一ある娯楽場所でもその時代は、今のように簡単には行けなかっただろうと。
「……で?わかったの?」
「ううん。やっぱり、戦国姫の気持ちは戦国姫じゃないとわからないよね」
安易に平和な世にいる自分が語って良いものかと、ひまりは躊躇したが……
「でもね。それこそ、憶測だけど。きっと、こんな風に好きな人と一緒に歩ける事が、凄く幸せな時間だったんじゃないかな」
素直に感じたものは、伝える。
「それと……。だからこそ……」
徳川家康が築き上げた、平和の世。それが、どれほど幸せな時代に繋がるか……身に染みて感じていたはず。