第209章 『デートって何?』後編
(……帰ったら。もう一度、探してみなきゃ……)
ひまりは家康の腕の中に収まりながら、書物を最後に読んだのはいつだったかを思い出す。
風もないのに突如、不自然に机の棚から落下したあの夜。
はらはらと。紅葉のように舞い落ちた栞を拾って、少し目を通した後に元の机の棚に戻した記憶しかない。
(今日。本当は書物を持って、ここに来たかったんだけどなぁ……)
特にこれと言って深い理由はない。しかし、書物を見ながら巡れば今日一日、何かが変わったかもしれない。何にも変わらなかったかもしれない。
書物が消えたのは、
佐助だけではなかった。
ただ、この時のひまりはまだ自分が何処かにしまい込んで、忘れているだけだと……
そう思い込んでいた。
「次のデートは、どこにする?」
「……次は家でのんびりデート」
「家康のうちで?なら、この前の続きのアルバム見て、お菓子食べながらDVDを見て〜……」
「そんな時間が残ってたらね?」
ご褒美貰った後に。
フード越しでも、
はっきりと聞こえた甘い囁き声。
ひまりは暫く首を傾げ、その言葉の意味を理解した途端。一気に頬を赤く染めて、丸メガネ越しに、強めに睨む。しかし、家康は何か問題ある?と言いそうな、涼しい顔を浮かべる。
「俺はテスト期間中でも、問題なし」
「私は問題大アリだもんっ!///」
かつて、戦国姫と戦国武将。
『ひまり』『徳川家康』が、肩を並べ歩いたかもしれない道。二人は言い合いをしながらも少し、後ろ髪を引かれるような思いで、安土城跡から離れていった。
デート。
それは、形が違えど……
いつの時代にも、
存在したのではないかと。
男女が手を繋ぎ歩くだけで。
笑い合うだけで。
静かに抱き合うだけで。
会う約束をした時点で……
それは、デートでは?
『デートって、何?』〜fin〜