第209章 『デートって何?』後編
「俺が、嫌とか言うと思う?」不意に顔の横でそう囁かれ、数秒後にある言葉を耳に落とされた、次の瞬間。
ひまりは真っ赤に頬を染める。
こんなに好きなのに?
頭の中でその声が何度もリピート。
「好き」の二文字は、普段あまり口にしない家康。ボソッとたまに呟くか、拗ねながらドサクサ紛れに言うのが殆ど。
こんな風に低く囁くのは、
愛し合ってる時ぐらいだった。
「そ、それは……///」
だからこそ、
その二文字には免疫がないひまり。
俯いた拍子に、
ゆらゆら揺れるイヤリング。
その態度を見れば嫌でないことは十分に伝わったが、「思っていない」とは、何となく自分からは言いにくい。
歯切れの悪い言葉を発し、ひまりは口ごもれば……
家康は、
頬にかかる髪をかきあげ、
嫌とか。
思わないし。
「言うわけがない」
惹きつけるような低い声で、
そう告げた。
幅が不揃いな石階段。あまり足場は良くない。ドジなひまりが落ちたりしないよう、腰元に腕を回して……身体を反転させ、右側のそびえ立つ石垣に寄りかからせると……
かぷりと耳朶に歯を立て、
「んっ………」
今度は、唇を奪う。
(こんな風に、二人も……)
昼間だというのに、家康は激しく呼吸を奪うほどのキスを繰り返す。
間近で絡み合う視線。
「こんな風に、過ごしてたかも……」
戦国姫と戦国武将は……
ひまりはその言葉に大きく瞳を開く。自分も同じことを考えていたからだ。しかし、家康の長い睫毛が下に落ちるのを見て、またすぐに閉じる。
キスの合間……
「んんっ……誰かきたら……っ…」
「こうやって、人目を盗んで……口付けして……」
愛し合ってたかも。
「……家康」
腰に回っていた腕が、
艶めかしく動き始め……