第208章 『デートって何?』中編
ボート貸し出し場。
そこにある一室、休憩所にて。
ブルブル身体を震わせ、業務用のストーブの前で毛布を羽織った二人。
そして、その前で
「本当にごめんね!」
「ひまりが謝る必要なし。大体、普通に考えたら分かる。あんな不安定な上に、勢い良く立ち上がるヤツが悪い」
頭を下げるひまりとは違い、シラっとした態度で毒吐く家康。
「お前には、優しさつーカケラないのかよ?大体、お前らが居るから驚いて、あぁなったんだろ」
負けじと言い返す幸村。
「本当にごめんね。私がボートに乗りたいって、わがまま言ったの。お邪魔したら悪いかなって、変装してたんだけど……」
待ち合わせ場所で、盗み聞きしてしまったことも一緒にひまりは謝った。その近くで、一部始終三人の話しを静かに聞いていた女。朝から一時間もかけヘアセットした、ふわふわボブはぺったんこのぐしゃぐしゃになり、可愛い花柄のワンピースも湖水を吸い込みぐっしょり。
女は毛布を頭から被り、じっーとひまりを見る。
(この可愛い女の子がひまりちゃん?幸くんが良く話しをしている……)
時折、部活や学校にいる時に話題に出てくる中学の同級生。ドジで泣き虫だけど、たまに負けん気が強く、バカみたいに素直でお人好し。
中学で一番、仲が良かった女。
そう幸村は、ひまりの事を話していた。この前、ブランコ競争を終わらしてきたと、嬉しそうに笑っていた幸村の顔が浮かぶ。
名前は同じでも、本人とは限らない。そう思って、寒さで震える唇を固く閉じていた。
しかし、
「お前は、謝らなくていいって」
ひまりに向けた表情を見て、女は確信。
「それ、俺の台詞」
あと、話したことはなかったが、家康のことは知っていた。「戦国学園の弓使い」と肩書きまで付く、有名人。弓道部のマネージャーとして当然の心得。