第208章 『デートって何?』中編
突然、水面が波打ち……
不安定なボートが大きく揺れる。
「きゃっ!!」
ひまりは悲鳴をあげ、
変な体勢で前に倒れこむ。
「反則。ってか反則、越えたから」
家康はそれを受け止め、その拍子に被っていたフードがハラリと落ち、ここに来てからずっと隠れていた猫っ毛が、風にそよそよと靡く。
ボートがグラついたのは、家康が急にひまりを自分の方に引き寄せた所為だった。
「家康!ボートグラついて!」
横にグラグラ動くボート。
肩に押し付けられた顔を動かして、膝立ちした今の不安定な体勢を元に戻そうと、狭いボートの上をひまりはもぞもぞ身じろぐ。
しかし、家康は後頭部を押さえ完全に固定。離す気は一切ない。
「なら、説明して。今の何?わざと?無自覚の必殺技かなんか?それともひまり得意技?」
何故か若干拗ねた声。ひまりの頭からニット帽を外して、耳元で問い詰める。さっきの言葉、仕草、表情の可愛さの究極三点セット。それが、普段の冷静さを奪う程、家康の脳内を占めた。
「チョンってしただけだよ!そんなに怒らなくても……」
「怒ってない。困ってんの」
「あ!ニット帽取ったら幸に見つかっちゃう!それに家康もフード!」
ひまりは家康のフードを掴んだり、ニット帽を返して貰おうと、手を伸ばしたり……兎に角、大忙し。
「別に見つかっても良い。俺らも普通にデートしてるんだから、こそこそする必要なし」
今にもひっくり返りそうな狭いボートの上で、二人はもつれながら、言い合う。
周りから見たら、
ただの仲の良いカップル。
しかし、この後。
貸し出し場所に戻ろうと、
動き出したボート。
「あ!お前ら何やって!」
家康とひまりに気づいた幸村。
「ゆ、幸くん!急に立ったら!」
「「あ!!」」
見つかった二人は同時に声を上げ、
咄嗟に身体を離す。
「…きゃぁぁっ!」
そして……
ドッボーン!!
クルッと反転した、一つのボート。
さて、どっちの……