第208章 『デートって何?』中編
ぎぃぎぃと音を鳴らして、
動き出した手漕ぎボート。
水面に無数の波紋が広がり、
小魚がスイスイと泳ぎ姿を隠す。
オールを持つ左右の手のこぶしの位置、高さを同じにして、その状態でひじが伸びきらないよう、注意して脚を踏ん張り、背中の筋肉と腹筋と使う。引く時は後ろに倒れこみつつ、体重を掛けるような感じにすれば、腕で引くよりは力が掛かるので、一掻きで多く移動する事が出来る。
乗り心地はゆったりだが、体力、腕力、コツがないと操作は困難。
その点、普段から弓道部で鍛えた腕、肩の力は役立つ。周りで苦戦する男達が相次ぐ中、幸村と家康が漕ぐボートは真っ直ぐ進んで行った。
「水面も綺麗……周りの紅葉も素敵……本当にありがとう。今日は、お願いを聞いてくれて」
「お前には、普段から世話になってるからな。気にするなって!まぁ、いきなりデートしてくれって言われた時は、流石に驚いたけどな」
幸村のその言葉を聞いて、女は「ごめんね」「でも、ありがとう」と、しおらしい態度でもう一度謝り、礼を述べた。
女は春日山高校、弓道部のマネージャーだった。春日山高校の弓道部は男子のみ。そんな中、女は一人で一生懸命にマネージャーを務め、その姿を常日頃から見ていた幸村。
ふと……
ーーお前、ほんと毎日良くやるよな。俺に出来ることがあるなら、言えよ。日頃の礼に、一つ聞いてやるから。
そう声をかけた。
ーーな、なら!私とデートして下さい。
今日のデートは、
ひょんな一言から始まっていた。
「この辺りで一回、止まるか」
湖の真ん中で一旦、
幸村はモールを漕ぐ手を止めた。