第207章 『デートって何?』
噴水前に現れた男の子。
「悪い。普通に寝坊した」
言葉とは反対に、これっぽちも悪びれを感じない屈託のない笑顔。
(嘘!!幸がデート!!)
あまりの衝撃に、
咄嗟に時計台に隠れた私。
中学の時も、告白されたりしてたけどいつも「興味ない」の一言。家康とはまた違う「興味ない」幸は相手のことじゃなくて「恋愛自体興味ない」って、断っていたのを思い出す。
「ううん。私が無理をお願いしたんだから。気にしないで。来てくれただけで嬉しい」
首を小さく振って、ニッコリ笑う女の子。鈴のように澄んだ声。ふわふわボブヘアに、花柄のワンピースを着ていて、おっとりした雰囲気。背も私と同じぐらいかな?
「とりあえず、飯でも食うか?」
(へ?いくら何でも早くない!?まだ、10時過ぎだよ!?)
思わず、心の中で幸に話しかけてしまう。何だか、こそこそ盗み聞きしてるみたいで、申し訳ない気持ちになるけど……
今更、出て行きにくい。
邪魔してしまったら、それこそ申し訳ない。
「ご飯?幸くん。もうお腹空いてるの?」
「あー……そうでもない。なら、行くか?場所は確か、湖だったよな?」
ズルッ。
私は思わず幸の台詞にズッコケる。
幸らしいと言えば幸らしい。
良いところでもあるから、別に良いんだけど。
(相変わらずだなぁ。でも、話を聞く限り女の子方から誘ったのかな?)
二人の成り行きをじっと見守っているのが、うずうずしてきて……チラッと女の子の方を見る。すると、静かに笑って、歩き出した幸の後を付いて行く姿が、私の視界で映った。
少しずつ遠ざかる二人。
(もーっ!家康はこんな時に遅刻するしーっ!)
二人の目的地が、私達が今日行く場所の近くだと分かり、ひょこっと顔を出して、爪先を立て駅の方に視線を向けると……
こっちに向かって走ってくる、ふわふわの金色の髪が見えて、私は隠れていた時計台から、手を振る。