第207章 『デートって何?』
デート当日___
玄関先で一礼して。
一目散に走り出す。
今日、デートなのはわかってる。
俺が誘って、行き先を二人で決めて。時間も、昨日の学校帰りに確認済み。
ただ、俺の頭から待ち合わせ場所だけが……ぽっかり抜け落ちていた。
(時計台。いつ、そんな約束……)
いつも通り五分前。ひまりを迎えに行けば、何故か玄関から出て来たのはひまりじゃなく、おばさん。
ーーあれ?今日は時計台で待ち合わせの約束したからって、早くに出て行ったわよ?
ーーえ?……時計台ですか?
ーーあの子。ぼっーとして勘違いしてたのかしら?家康くんが間違えるはずないし……
走りながら記憶を辿ろうとすれば、途端に左目に激痛が起こる。
(く、そっ。何なんだ)
痛みが治まった頃。
駅に着く直前。俺はポケットの中で、振動があるのに気づいて、画面を見る暇もなく指で操作。
受話器を上げ……
「……は、っ…ごめんっ!今、向かってる!」
真っ先に謝った。
なのに、耳に届いた声は……
「……どこに向かってんだよ」
ひまりの声とは大違い。
笑いを含んだ幸村の声。
即、切る。
けど、すぐに折り返し。
「……何?今、かなり急いでんだけど」
俺の口から出たのは、
誰がどう聞いても不機嫌な声。
画面に滑りかけた指をグッと堪え、用件を聞く。相手が三成なら、完全に無視してるとこ。昨夜もいきなり「ツンデレとは何ですか?」とか、訳がわかんない電話掛かってきたし。
「なぁ。デート遅れた時。お前なら何て言う?」
「……はぁ?」
ってか。現に今、俺がその状況。
「……とりあえず謝る。ってか、何?まさか幸村…『謝りゃいーんだな。了解』」
プツッ。
今度は幸村が、話の途中で電話を切る。
俺は、盛大な溜息を吐く間もなく……
(薄着でも良かったかも)
汗を引かせる為、上着を脱いで、電車の中に乗り込んだ。