第43章 「恋の和歌集(7)信長様編」
4限目の家庭科の自習時間。
裁縫が得意な私はクラス一人だけ課題が終わっていて、その代わり織田先生に手伝いを頼まれ、職員室の隣にある個室に向かった。
机にドンと積まれた、夏休みに向けたプリント資料。それをひたすらホッチキスで閉じる仕事みたい。
昨日家まで送って貰った私は、二の次返事で了承し黙々とこなす。
「夏休みなんてまだ先なのに、こんなに早く用意するんですね?」
「来月は課外授業やらで忙しい。七月には期末があるからな」
その言葉についうっ。と喉が詰まる。
そんな私の様子を愉しむように口角を上げる先生。赤点……と言いかける声を聞いて、私は分かってます!と早々に答えた。
「……そう言えば、貴様に出した以前の課題。まだ、何も言っておらんだな」
「そうでした!って言っても、資料見て自分なりに解釈しただけですけど」
「まぁ、大方はあのような感じであっておる」
私は手を動かしながら、なら良かったですと視線を一度先生に向ける。すると、
「あの和歌を、貴様に贈ったと申したらどうする?」
「からかわないで下さい」
「貴様に口先では、男心が伝わらんようだな」
呆れたようにそう言われ、ついムスッとしてどうせお子ちゃまですからと拗ねる。日頃から先生にそう言われ慣れてるから、今更なんだけど。
「あの素敵な和歌は、綺麗な大人の女性に贈って下さい」
昨日みたいな女性に、その部分だけは心で呟く。
そして暫くした後、
ギッー……。
すぐ近くで、椅子が弾く音が耳に届いた。