第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
人目も気にせず、
広げられた両手に飛び込む。
「優勝おめでとう!!」
一番に笑顔で言いたくて、本当は泣きそうだったけど、グッと我慢。
すると家康は少し笑った後、あ!って感じで何かを思い出したように、身体を離すと……
スッと、
首にかけていた物を取って……
「はい。……一日、遅れたけど。一ヶ月記念の贈り物」
私の首にそっとかけた。
(え……?コレ……)
胸の前で光る重み。
家康と髪色と同じ、
キラキラした金色のメダル。
「ま、待って!こんな大切な物!貰えないよ!」
私はそれを見て慌てて、首から外そうとすれば、その手を家康の手が止める。
「遅くまで、いつも練習付き合ってくれたお礼も兼ねてるから。俺も昨日、お守り貰ったし。受け取ってくれないと困る」
「練習って!私、ただ見てただけだよ?何にもしてない、のに……」
お守りだって、
ただ私が渡したかっただけ。
持っていて欲しかっただけ。
違う意味で堪えていた涙が、嬉しさと不甲斐ないさが混じりながら、じわじわと滲み出てくる。
「それが一番、優勝に必要だったし。……って、何で泣くの」
「だっ、て。ほ、んとうに…何にも出来なか、……ったのに」
メダルの重さが余計に、
その事を教えてくれる。
皆んなから期待されて。
部長としての威厳とか、責任も抱えて。
秀吉先輩の後継者として、一人で全部、背負って……。
いっぱい努力してるのに、全然平気そうな顔して……。
(なのに、私は近くで見てることしか出来なかった……)
支えたくても、どう支えて良いのかわからなくて。静かに待ってるか、終わった後に、笑顔でタオルを渡すことしか出来なかった。
ぽろぽろ泣きながら、
そう話すと……
顔が胸に引き寄せられる。
「……ただ、見てるだけとか。普通ならそんな時間、つまんないのに。文句一つ言わずに、待っててくれる彼女とか……」
メダルより、
ずっと大切なんだけど。
それを聞いて、
ますます腕の中で泣きじゃくる私。
家康は覗き込むようにして、
頭を下げると……
「俺はコレが欲しい」
人目から私を隠すように、
キスをした。