第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
どよめきが起こる会場。
優勝一番候補として期待されていた分、他校の応援者も驚きを露わにして、ボソボソと話す声が周りから聞こえた。
「う、そ。徳川がいきなり、外した……?」
ゆっちゃんも口に出して、驚きを露わにする。私はただ……左目を微かに気にしている家康を見続けた。
「あいつ。また、殺虫剤でやられたとかじゃねえよな?」
(家康……)
ゆっちゃんと政宗は観客席の囲いから、身を乗り出すように射場に立つ、家康の姿をまじまじと見る。
きっと違う。
何かされたんじゃなくて……
(痛いのかもしれない)
昨日もご祈祷の時、押さえていた。
赤く見えたのは光の加減で、私の見間違いか、思い違いかもって、思ったけど……
押さえてたのは、間違いない。
だから、少しあの後も気になってて……
無理はしないでって。
無理はして欲しくなくて……約束した。
相手の人が射場に立つと、また会場は一体化したように静まり返り、誰もが食い入るように見て、息を呑む。
決勝戦は射詰めで決まる。
もし、相手が決めれば……家康が負けてしまう。
私は、お守りを今度は胸にあてるように抱きしめる。涙が勝手に出てきそうになるのを、必死に堪えると……
涙の代わりに……
毎日、毎日……部活終了後も練習していた背中が目に浮かんでくる。部長になってから、初めての大会。
家康は弱音なんて一度も吐かない。いつも強気で何にも言わないけど、きっとあの背中には色んな想いが乗っていた。
見えない期待が重く。
ーーごめん。待たせた。
ーー私なら全然、大丈夫だよ!家康の射る姿、見てるの好きだから。
今もきっと……。
「相手も外した!!」
ホッと安堵の息を吐く。
でも、無理はしないで欲しい。
私はお守りに縋るように、顔をくっ付けた。