第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
決勝戦。
歓声が上がり、暫くすれば会場に静寂が流れ、程よい緊張感が逆に指先や肩の力を解す。
軽く息を吐き、
一礼して、的前に立つ。
決勝前の僅かな時間……
ーー見てるからっ!
ひまりの姿と声援を胸にしまい、
息をゆっくり吐く。
両足で床面を踏みしめ、
渾身の力を込めて弦を引く。
一瞬……
時が止まったように張り詰める間。
(ここで、俺はいつもひまりを見る)
夏の大会と、今は違う。
秋の大会の、今とでは違う。
負傷をして、目を閉じて浮かび上がるように、見えていたひまりの姿。
射止めたくて……
俺の想いが届くように……
真っ直ぐに放っていた矢。
負傷していない目は、はっきりとひまりの影をそこに映し出す。
射止めた今は……
お互いの想いが繋がるように……
真っ直ぐに一本の線を放ちたい。
(大会が終われば、ひまりとの時間が……)
極限まで弦を引きつけた時。
ーー約束ねっ!
頭に響いたひまりの声。
「……っ!!」
突如、左目に襲った激痛。
(しまった!)
放つ瞬間、僅かにズレが起きた。
シュッ……
鳴ったのは、
カツンと澄んだ音。
………………………
響かなかった音。
的のぎりぎり左側に外れた矢が、
木枠に弾かれ……俺は外した。
「百発百中の的中率が……」
「いきなり、外した……」
静まり返った、観客席からそう呟く声が耳に届いた後。
どよめきが起こる。