第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
観覧席に到着した時。
弓が頭上高く持ち上げられた。
その瞬間、
静寂に包まれた会場。
(家康……)
私はただ、
祈ることしか出来ない。
夏の大会も、秋の今も。
あの夏は、特別観覧席で見てたから……負傷したのを聞いて、まさか目を瞑りながら試合をしていたのを、知らなくて……後から知った。それでも、試合中、ずっと見えていた。
家康の真っ直ぐな瞳。
(あの時に、私は気づいた……)
ずっと、知らない間に鍵をかけていた自分の気持ちに。
でも今は、皆んなと一緒に観客席最前列で、家康を見守る。
会場の息継ぎまで聞こえてきそうな、そんな張り詰めた空気に、私のが緊張して……スカートの前で震えそうになる手。グッと拳を作り、もう一つの手で手首を掴む。
「大丈夫。徳川なら決めるって」
「お前が一番、信じてやれ」
うん……。私の両サイドに立つ、ゆっちゃんと政宗。小さな声で私の気持ちを落ち着かせてくれる。
拳の中にあるお守りを強く、握りしめる。四角いピンク色。真ん中に葵紋の刺繍を入れたお守り。
家康には、まだ内緒。
色違いのお守りを作って、
持っていることは。
だって、私もって言ったら「そんなに願掛けしないと不安なわけ?」って、拗ねるといけないから。
試合終わってから、
話すつもりでいた。
作った理由は、ただ、試合中も繋がっていたい。そう思っただけなんだけどね。
(まず、一射目!)
視界の先で
弦を引きつけて
「会」に入る姿を見て……
ーー優勝。絶対するから。ご褒美期待してる。
ーーふふっ。何が良い?
ーー大会終わったら、時間出来るから。いっぱいひまりが欲しい。
ーーもう///そんなのご褒美じゃないよ。
ーー俺には最高のご褒美。
ーーなら、一つだけ約束して。
前みたいに無理はしないでね?
(約束だよ……)
ぎゅっと手に力を入れた。