第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
オッドアイを
真っ直ぐ見上げて……
切羽詰まったように、切実に訴える。
「お願いします!!退いて下さい!」
一言でも良いから、伝えたい。
一秒でも良いから、会いたい。
その想いを全身で伝えた。
すると……
面食らったように、三日月のような目を開いて、ゆっくりとした動作で、謙信さんは後ろに下がってくれて……
(わかってくれた……?)
私はホッと胸を撫で下ろす。
お礼を言うのは、変かな?と、思いながらそれでも「ありがとうございます」と、言葉が自然に出た。
謙信さんが「何故、礼を言う?」少し、可笑しそうに口角を上げるのを見て、今度は私が驚く番。
(笑った所。……初めて見た)
「いえ。伝わったのかな……そう思ったらつい」
思ったことを、正直に言うと、
「……俺も自身の行動に理解出来ていない。……ただ、不思議と今のお前の瞳を見たら、身を引いていた」
何故かな。
「ひまり。こんな所で、何をしている」
声がした方に視線が動く。
「先生!!」
謙信さんの言葉を遮るように、曲がり角から現れたのは織田先生。
私の隣までカツカツ革靴を立てて歩くと、謙信さんが口開く。
「……鬼顧問で有名な、織田か」
「貴様に、そう呼ばれる筋合いはない。それよりも、だ。ひまり。何をぼっーと突っ立っている」
決勝戦、始まるぞ。
先生の言葉を聞くや否や、
私は走り出す。
「……家康っ!!」
入場のアナウンスが流れ、扉の前に姿を消しかけた家康に、声を張り上げた。
「見てるから。……真っ直ぐに見てるからっ!」
家康が、見ててくれたみたいに。
……私も。
振り返った表情は、
一瞬にして目まぐるしく変化。
驚いて、唖然として、少し笑って、最後は真剣な表情で頷いてくれる。
「必ず、勝つ」
声はなくても、
家康の強い目がそう語る。
お守りを、
チラッと見せてくれた後ろ姿。
戦う前の頼もしい背中を……
消えてからも、暫くの間。
その場から動けずにいた。