第206章 天邪鬼の愛〜聴色〜最終章〜
秋季大会当日。
全国から選ばれた、
優秀な個人選手が集まる。
家康は夏の大会で見事、優勝してこの大会の切符を手に入れていた。
真っ直ぐに射る姿と奏でる弓音。
私は一番前のギャラリーから、その姿を息を潜めて、静かに見守っていた。
予選を百発百中の圧巻の強さで勝ち上がり、決勝戦まで駒を進めた家康。
(今なら、少し会えるかも!)
少しでも直接、
声援を送りたくて。
伝えたくて。
会場を走り回っていると……
バンッ!
「俺にさっさと、乗り替えろ」
壁と両手に挟まれ、行く手を阻まれる。
目の前に迫るオッドアイ。
一瞬、その瞳を見て……。
「あ……」
昨日の家康の事が脳裏を掠めた。
でも、
「……このまま、攫うか」
私のことなんて御構い無しに、グイグイ顔を近づけてくる謙信さん。
「冗談は止めて下さい!!私、急いでるので!!」
眉ひとつ動かさないで、サラッと息を吐くぐらい簡単に冗談を言われ、強めに声を上げる。
「あいつに会いに行くのか?……ならば、余計に退くことは出来ない」
(このままだと、決勝戦始まっちゃう!!)
髪を愛でるように急に、優しく触れられて、私は腕を突っ張って必死に抵抗。けど、すぐに両手を押さえつけらて……全然、歯が立たない。
夏の大会、準優勝者、春日山高校の謙信さんもこの大会の出場権を手にして、さっきまで出ていたんだけど……予選で家康とあたって敗退。
もしかして、それで八つ当たり?って、考えも浮かんだけど……
「……女の強い香りは好まないが、お前の香りは良い」
どう見ても、
怒っているようには、見えない。
いつも、謙信さんと一緒に居る幸の姿は何処にもない。「肝心な時にいないんだから……」って、つい関係ない幸を責めてしまいそうになる前に、私はキッと強めに視線を向け……
(自分で何とかしなきゃ!!)
このままじゃ、駄目だと思い。
自分で何とかしようと、
「どうしても!家康に伝えたい事があるんです!だから、退いて下さい!!」
力では敵わない。
だからこそ、必死に訴える。
それぐらい、私は気が焦っていた。