第205章 天邪鬼の愛〜聴色〜(9)
桜紅葉。
少し冷たい風が吹き荒れ、ひるがえる葉が表と裏と違う色を見せて、赤く明滅しながら舞い散る……
もみじより、早く色を染め葉が落ちる秋の桜……
木々は裸になりつつあった。
世界で、
二人だけが取り残されたような……
そんな空気がまわりを包んでいた。
「家康。皆んな、もうお店に着いてる頃だよ……?」
「明日。試合、終わるまで多分……会えないから。その分、充電」
何とか理性が平常に戻った家康。ひまりの薄い体を腕の中にすっぽり収め、髪に顔を埋める。
「今度の休日。……空いてる?」
「休日?テスト期間入る前の?……うん。空いてるよ」
「……なら、空けといて。……デート。まだ、ちゃんとしたのしてないから」
それを聞いたひまりは、胸に寄せていた頬をはなして顔を上げ、嬉しそうに笑う。
「なら、待ち合わせしたい!」
「……確か、この神社に合格祈願来た日も待ち合わせしなかった?」
誰だっけ?遅行して来たの。
家康は呆れた声を出すが、表情は柔らかさを見せる。どこに行くかは、明日の大会終了後に決めようと相談。
中学三年の受験前。
ここに来て、二人は戦国学園の合格を、願った。そして、その日の夜に鹿の形に形どった守りを家康はひまりから、貰ったのだが……
「はい。家康の勝利をいっぱいお願いして、ひと針ひと針……思いを込めたから……」
四角く形どった守り。
しかし、その真ん中には葵紋の刺繍。
三つ葉に形どった物だと、予想していた家康は少し驚きを見せた後……
「……ありがとう。大事にする」
受け取り、
ひまりの顎を持ち上げた。
少し予想外だった守り。
少し大人びたキス。
二人は、静かにゆっくりと……
大人に近づきつつ……あった。