第205章 天邪鬼の愛〜聴色〜(9)
一頻り話をした後。
部員達は、手水舎に行き清める。
そして参拝後、拝殿に向かい家康を真ん中にして、正座。
暫くすると……
作務衣から、正装に着替えた秀吉が現れ、その場にいた全員は口を固く結んだ。
「では、只今から必勝祈願の祈りを始めさせて頂きます」
本来ならば父親の神主が行うのだが、
今回は特別にご祈祷。
秀吉は高校を卒業後、本格的に神道を学び、神職の資格を取得する予定になっている。格式の高い社家の家柄の為、神社庁の推薦書を貰い家業を継ぐつもりだ。
「払いたまえ、清えたまえ……」
秀吉はまず祓串で自分自身を清め、次に家康や部員達を清める。
それから神前に畏まり。
心地よい祝詞に全員は耳を傾け、背筋の伸びた広い背中を部員達は見つめた。
そんな中ひまりは、祈りが始まる前にブレザーのポケットからある物を取り出していて……
(どうか家康に勝運を……)
それをしっかりと、手の中で握り大会の勝利を願う。そして瞼を持ち上げ、
ふと、何気なく首を少し動かし、隣に座る家康に目を向け、すぐに正面に戻したが……
後から遅れてやってきた違和感に、我が目を疑うように、再度視線を向け……
息を呑んだ。
隣で痛みを堪えるように、押さえた左目。家康のキメの細かい指と指の隙間に微かに覗く、赤い色。
(あの人と同じ色……)
ひまりは、今度こそはっきりとその光景を見たが、自分の目を信じることが出来ず、恐る恐る覆われた手に、触れようとした時……
「畏み、畏み、白す……」
秀吉が頭を深々と下げた所で、スッと家康の手が膝まで落ちた。
目を閉じ、軽く頭を下げ、ひまりの視線に気づいたのは、翡翠色の左目。
「どうしたの?」
まるで、そう言ってるかのような目にひまりは、考えを払いのけるようにして首を軽く振った。
そして、その様子を静かに見ていた、信長と光秀。
家康に、訝しげに目を凝らした。