第205章 天邪鬼の愛〜聴色〜(9)
『花ノ天女神社』
赤い鳥居を潜ろうとする、一人の男。
そしてその男を見下ろす、二つの影。
「やっと、帰ってきたし」
「何?しけた面して?」
男は無視しようかと思ったが、ある事を伝える為、止むを得ず顔を上げる。
「準備が整い次第。……暫く、俺は留守にする」
「おっ。遂に動くのか!」
「やりぃ!俺たちのやりた…『まだ、大人しくしてろ』」
「「……チッ」」
鳥居の上で、二つの影は舌打ち。
暗闇に浮かぶ三日月に近づくように、立ち上がり……
仲良く肩を抱え合う。
「「で?何か、わかったのかよ」」
「……姫は、新月の前後。不安になりやすい。けど……その分……」
男は頭を正面に戻して、あの夜の光景を思い出す。
ーーはぁ…っ…い、え…やす。
ーーひまり……もう、一回だけ。
暗闇で重なる二人。
(愛は深まりやすい)
顎に手を添え、眉を微かに寄せた。
「予定では、満月になる前に出る」
悪戯するなよ。
翠玉(すいぎょく)
天鏡(てんきょう)
「「……了解」」
鳥居を潜りながら、男はそう告げ。
頭上でニヤリと笑う二つの影は……
赤い両目と、翠の両目を細めた。