第204章 天邪鬼の愛〜聴色〜(8)
俺は返事の代わりに、
毛先から指を離して……
コンコンッ。
机の上に乗ったピンク色の箱を叩く。
ひまりはそれを視線で追い、首を捻った数秒後、ハッとした様子で顔を上げ……
「えっ///アレやるの?///」
「あの時は、普通に出来なかったから」
「で、でもっ///」
意味を理解した途端、慌てだした。
きょどきょどしながら、普通に食べた方が美味しいとか、貴重なマラソン大会の戦利品だから、大切に食べたいからとか。思い付く限り、言い訳を並べ始めたひまり。
思わず俺は吹き出す。
「プッ。……慌てすぎ。誰だっけ?あの時、恋人同士の定番で幼馴染の定番じゃないって、一緒の反応してたの」
「あの時は必死だったの///だって、まさか家康の好きな子が……そ、の……思わなかったんだもん」
「自分だって?」
そう揶揄うと、うっ。と、ひまりは声を詰まらせ俯く。
春は、まだ俺の片想い。
だから、普通に出来なかった。
指で叩いた箱の中身は、ポッキー。
マラソン大会の入賞景品は、何故かコレ。噂で聞いた理由は、「1位」を目指すためにとか、単に走った後の疲れを取る糖分補給とか、どれも的を得ているようで、得てないような微妙な理由だけど。
箱を持ち上げて、
「あの後。口聞いて貰えなくて、俺のが必死だったんだけど」
仲直りするのに。
ちょっと拗ねた口調で言えば、ひまりは頭を上げて、俺の名前を呼ぶ。昨日の帰り道。微妙に気まずい空気に、当事のことを思い出したことを話して……
「……今回のキス禁止令。あの時と同じぐらい、キツかったから」
声を落として言えば、途端にシュンと下がったひまりの眉。
俺はフッと息を吐いて、コツンと痛くない程度に、ポッキーの箱で頭を小突くと……
「責めてるわけじゃない。昨日も言ったけど、おあいこだから」
そう言って、立ち上がった。