第203章 天邪鬼の愛〜聴色〜(7)
『保健室』shortstory
天使のような寝顔。
一般的に、可愛い女の子とか赤ちゃんに使う言葉かと思っていた私。
けど、訂正するわ。
「すぅ……すぅ……」
やや青白く見えるほど透き通った肌。
中性的な印象の長い睫毛。
(まさに、天使の寝顔ね)
おでこの腫れが引くように、
冷やしたタオル。
私は、三成くんを起こさないようにタオルを取って、腫れが引いたのを確認すると、カーテンを開ける。
すると、椅子に座って作業していた先生が、私に気づいて立ち上がった。
「腫れ。引いたみたいです」
使用済みになったタオルを、カゴの中に入れながら、このまま付き添っていても大丈夫か尋ねると……
先生は自分の手で、顎のラインをなぞり笑う。
「クッ。良かったのか?高校最後のマラソン大会に参加しなくて?」
「全然、構いません。寧ろ、長距離は不得意分野なので」
「俺は、テントに戻る。三成を頼む。……クックッ、序でに、寝込みでも襲ってやれ」
冗談か本気か分からない声。
でも、喉を鳴らしたから冗談ね。
伊達に弓道部の副部長をやってた訳じゃないから、滅多に部活に顔を出さない副顧問でも、それなりに熟知はしていた。
白衣を翻して扉から出ていく、明智先生。私は、何気なく部屋を見渡す。
普段、あまり足を運ばない保健室。
先生の机が一つ。
処置する場所の後ろに大きなソファ。
薬品棚、保健関係、医学書が並ぶ本棚……
(卒業前にもう、来ることはなさそうね)
自分でも褒めたくなるぐらい、健康。ひまりみたいに、そそっかしくないしね。
そんな事を考えながら、物珍しいものを見るように、一つ一つ中にある物を見ていると……
「ん〜……」
カーテンの向こうから、
聞こえた声。