第203章 天邪鬼の愛〜聴色〜(7)
どうしてそんな声だったのか、
私が知るのはもう少し先の話で……
今は、
(も、しかして………)
震える指先で口元に触れる。
さっき、押し付けられた熱いモノが、政宗の唇だと理解するのと同時に……
「……残さず食えよ。俺は、お前の作ったモン。全部、食ったからな」
「え……気づいて……んんっ」
手首を掴まれて、肩に回る腕。
「……ちゃんと、口開けろ。負ぶってやった礼に……寄越せ」
喋る為に開いた筈の口が、再び塞がれて……深く柔らかいモノが強引に入り込んでくる。
政宗の表情が見えない。
どんな顔して、どんな気持ちで……
こんな事をするのか、分からないけど。
「んんっ、…はぁ、っ……」
甘く漏れた声。
「……甘いじゃねえか。吐息もな」
食べられてるのか。
「ま、さむね、何で…っ、…ん」
こんなの、ずるい。
「しー。黙って……食えよ」
食べてるのか、混乱しながら……
「お前の家庭の味。美味かったぜ」
胸が締め付けられるぐらい、
優しい声、唇のぬくもり、広がる政宗の香りに……
すっかり、酔って……
唇が離れた瞬間。
ブレザーが、バサリと肩に落ちる。
「寒いなら、着てろ」
「……政宗」
やっと、晴れた視界。
でも、政宗は目を合わしてくれないし、私の膝に乗ったお弁当の蓋を開けて、何事もなかったみたいに、黙々と食べ始めた。
(ばか……あんなキスしといて…)
まだ、言うな。
無言で横顔は、そう告げてる気がして……
「好き」って言いそうなった口を噤む。
でも、
ーーしー。黙って……食えよ。
あの声は……
溶けそうなぐらい甘くて……
私は肩に乗ったブレザーをぎゅっと、掴むと……
「今日は…そ、の…負ぶってくれて、ありがとう。ちょっとだけ、う、嬉しかった///」
それだけは、ちゃんと伝えた。
縮まった距離が勇気をくれる。
肌寒かった風が今は、
心地良かった。
そんな、『昼休みの屋上』
政宗様×ゆっちゃん編〜fin〜