第42章 「恋の和歌集(6)信長様編」
結局、まともな会話がないまま私達は、一旦バスを降りた。
最終の市外まで来ちゃった。
駅まで歩くにも、この雨だとまた家康濡れちゃうし……。
ベンチに座ったまま、日が沈んだ黒い空を見上げる。
降り続く雨の中、途方に暮れた。
「ねぇ、家康。そう言えば、傘は?」
確か、持ってたのに。
「三成に貸してきた」
ボソッとそう呟く家康。
ほんとかな?
疑うつもりはなくても、つい勘ぐってしまう。つい顔を覗き込むように見ると、家康はバツが悪そうに横を向いた。
(まだ、拗ねてる)
捻くれ者なのは昔からだから慣れっこだけど、こう理由が分からないとどう対処して良いか分からない。
私は溜息を吐きながらベンチに座ると、目の前にあるマンションに見覚えのある車が止まり……
「今度は、ゆっくりして行って下さいね」
「気が向けばな」
絶世の美女が助手席から降りてきて、白い傘を広げる。
今の声!
(織田先生!)
私と家康は心の声が揃ったように、顔を見合わせた。
赤い車もナンバーも間違いない。
「凄い綺麗な人。恋人かな?」
「へぇ……鬼に彼女ね。悪趣味な人」
「失礼だよ!織田先生、格好良いから女子生徒に人気なんだよ?」
「何?まさかひまりも、思ってんの?」
「え?私?赤点取った時は怖いけど、普段は包容感あって男だし……普通に良い先生だと思うけど?」
「あっそ」
口を尖らせ、また拗ねる家康。
何なんだろう?今日は本当に?