第41章 「恋の和歌集(5)三成様編」
「家康、三成君に何かしたの?」
「……………」
「何処行くつもり?」
「……………」
完全に無視され、訳が分からなくなる。
何で不機嫌なのか全然分からない。
バスに乗った理由も分からない。
駅が最終だったバスは、再び来た道を戻り出した。
私は、家康にポイッとハンカチを投げ……
やっと、こっちに向いたのを確認して
車窓をコンコン叩く。
はぁっ。
と息を吹きかけ、
『何で怒ってるの?』
くもっている間に、書いた。
すると家康は私と反対側の窓に、同じように吹きかけ……
『ひまりがばかだから』
と、文字が浮かんだ。
(何でそうなるの!?)
そこから、私達の声のない会話が始まる。
『何処行くの?』
『決めてない』
『何があったの?』
『こっちが聞きたい』
『何が聞きたいの?』
『三成と何してたか』
私の手が止まる。
流石にそれは、長文過ぎて書けない。そもそも何してたって……図書館に行って、吊り橋効果?を使った勉強をして……
それからバスに乗って……。
(もしかして、見えてたの?)
バスが動き出す瞬間、一瞬だけ見えた。家康が顔を上げたのが……
(でも、アレは事故みたいなもので)
家康が不機嫌になる理由に、繋がらない気がするんだけど。
こうなったら直接、聞かないと。
三成君にメールしようにも、何があったか分からないと出来ない。
私は、鞄を持ってバスが停車した時に移動する。
車窓に映る家康の視線が動くのを見て、私は頬を膨らますとトントンと肩を叩き人差し指をスタンバイ。
「……普通に、見えてるし」
「えっ?この角度なら見えないと、思ったんだけど」
「……詰めが甘い」
「もう!知らない……っ!」
次で降りようと、バスの降車ボタンを押そうとした時。
また腕を掴まれ、
「あんなの見たら、拗ねたくなるし」
顔に落ちる雫。
家康のぐしょぐしょに濡れたシャツが、私の背中に染み込んで冷たかった。
「何で、三成にキスされたの?」
え……。
何で、それで家康が拗ねるの?
逆に聞きたいよ。