第202章 天邪鬼の愛〜聴色〜(6)
背後から赤いオープン車。
隣からはブツブツ文句。
緑道沿いを走れば、汗ばむ額にスッとした風が掠め、落ち葉を踏めば、くしゃりと乾いた音がやみつきになりそうな感触と一緒に、届く。
校門をくぐり、二人で一緒にゴールのラインを越えて……私は仮設テントにいる、明智先生から参加賞を受け取り………
「……はぁ、はっ…はぁっ……。十五キロって。校庭百周と変わんないし」
(……ごめんね)
走り出したら「ここまで来たついで」って、私に付き合ってくれて、織田先生に追われながら……プラス五キロを走った家康。
息切れを解消しようと、大きく深呼吸を繰り返して、グランドと校舎の真ん中にある石段の二段目に座り、頭を下げていた。
(ふふっ、髪の毛。汗でぺちゃんこになってる)
私は、その顔を覗き込める高さまでしゃがみ込むと……
ピトッ。
参加賞の冷えたスポーツドリンクを、家康の頬っぺたに、くっ付けて……目が合った瞬間。
「ありがとう」
心配して来てくれて。
一緒に走ってくれて。
私は満面の笑顔を見せて、
お礼を言うと……
雫が、ぽたって一つ。
金色の髪から落ちて……
ゆっくり……
目元と口が少し動く。
「どう致しまして」
きゅん。
その一瞬、胸が震える。
お日様をバックに、
見せてくれた笑顔。
あの、
特別な笑顔を返してくれた。
(やっぱり、全然。似てない)
髪の毛、ぺっちゃんこで前髪も左目にかかってるけど。
全然、違う。
だって……
「俺のゴールは、ひまりだから」
最後に辿り着くのは。
いつもね。
ほんの少し赤く染めた目元。
これが一番、特別だから。
校舎に戻る途中。
「そう言えば、あそこで立ち止まって何してたの?」
「え?あ!あのね!ちょっと、体調悪くて休んでたらねっ!」
キーンコーン……
チャイムの音を聞いて、
ハッと顔を合わせる。
「「次、歴史の授業!!」」
結局、あの人の事を話せないまま……
私達は急いで、更衣室に向かった。