第199章 天邪鬼の愛〜聴色〜(3)※家康様side
すると、
「う、ん。……ありがとう!」
ひまりは明るい声を出して、
ぎこちなく笑う。まるで、鏡の前で練習したような笑顔で。
思わず、それにピクッと俺の指先が反応。
伸びかけた手。
けど、途中で引っ込めて……
(……はぁ)
息を吐きながら、ゆっくり元に戻す。
影一つ映さない、ただ灰色のコンクリート。そこに、視線を落としながら一歩、下がろうとした時……
風の音が
いつもよりくっきりと耳に届く。
大した強い風でもないのに、それは不思議なぐらい軌跡を残して、俺たちの間を通り抜け……
その風の冷たさに、耐えるように身を丸め、薄っすらと閉じた瞳。
そんなひまり姿が、花びらのようにもろく繊細に見えて……
咄嗟に、俺は……
腕の中に閉じ込めていた。
ひまりの肩から滑り落ちる鞄。
「……………い、…えやす?」
か細い声が、胸に振動を与える。
「……………」
返事の代わりに、息が止まるほどギュッと抱き締め、存在を確かめるように髪を指に絡めれば……
微かにあった隙間が、埋まる。
「………ご、め…ん…、なさい」
ひまりはひどく震えた声で何故か謝り、ゆっくり俺の腰元に腕を回す。「何で謝るの?」そう聞くと、腕の中で身体を小刻みに震えはじめ……
「……禁止、…な、んて…いっ……くっ…」
「……何か理由あったんでしょ?それに、謝らなくて良い」
俺も、意地悪したから。
おあいこ。
そう言って、頭にそっと手を添える。
不安になりやすい時期に、
ちゃんとした理由も聞かずに……
「ド、キド…キ……し、…て欲しく…っ…、て…」
「……してるよ。いつも。可愛くて、心臓煩い」
「で……も、そんな、…風に…」
「こんな、好きな子として。ドキドキしない訳ない」
する前も、してる時も、した後も。
捻くれ者で、口下手な俺にとって、
キスは「好き」「可愛い」の意思表示。
そう言ってるのと、一緒。