第198章 天邪鬼の愛〜聴色〜(2)
放課後の部活中。
「今日は、自主練中心で」
練習メニューを尋ねると、後頭部をグイッと掴まれて、耳元でそう囁かれ……
私はつい条件反射みたいに目を瞑った瞬間。家康は、何事もなかったようにスッと離れていく。
それに、今までドキドキしていた胸が、チクッと何故か痛んで。
無意識に唇に指をあてていた。
(私が、言い出したんだから……)
家康はただ『禁止令』を、
守ってくれているだけ。
でも、
それは校内だけだったのに……
「「……………」」
帰り道、繋がった手。
その温もりが、今の唯一の温もりみたいに思えて……会話がいつもより弾まなくて、家が近くにつれて口と足が重くなる。
校内ではあんなに近づいたり、触れたりしてたのに、学校を出た途端……ピタリとなくなった。
(やっぱり、キスしないんだ……)
付き合ってから一緒にいて、
キスしない日なんてなかったのに。
このままバイバイしたら……
家の前に辿り着くと。
私達の足は同時に止まり……
そっと、手が離れる。
「早く寝なよ。じゃないと、明日のマラソン。バテるよ」
「う、ん……。ありがとう!」
私は、沈みかけた気持ちに気づかないフリをして、敢えて明るい声を出して笑う。
でも、
足は一向に動こうとしなくて……
(……どうしよう。キスしたい)
でも。……して欲しい。なんて、恥ずかしくて言えない。それに例え、校内じゃなくても、キス禁止って、言い出したのは私自身で……
どうしよう。
(こんな、勝手なことばっかり言ったら……)
嫌われちゃうよね。
ラブラブでいたかっただけなのに。
結局、ドキドキしてたのは私だけで……
ーー俺からはしない。
(なら、私からなら……)
そう思った時。
風が吹いて……
うすく目を閉じる。
まだ、息が白くなる季節は少し遠いのに、思いがけない冷たさに、体を縮こませた。