第198章 天邪鬼の愛〜聴色〜(2)
そして、休み時間。
天音ちゃんが海外に行ってしまい、空席になった家康の隣の席。そこに私は座り、明智先生に頼まれた、インフルエンザ予防の呼びかけポスターの、下書きをしていた。
「いい感じじゃん!」
「ありがとう!仕上げに、イラストでも書いて〜」
机の前に立つゆっちゃんに、褒めて貰って私はペンを口にあてて、インフルエンザ予防にマッチした、イラストを頭の中に浮かべる。
「ほら、糖分摂取でも……あ〜〜!ちょっと!何で勝手に、食べてんのよ!」
「いちいち声がでけえ。明日、入賞して返してやるよ」
さっきまで、机の上に置いてあったポッキーの箱。それが、いつの間にか家康と喋っていた政宗の手に。
(ふふっ。ゆっちゃん。顔は全然怒ってないよ?)
赤い箱を奪い合いする二人。
つい、手を止めて見ていると……
ふと、視線を横から感じて……
顔を少しだけ、動かすと……。
「……………」
机の上で片頬杖をついて、家康が私のほうをじっーと静かに見ていて……
ドキッ……
吸い込まれそうな、綺麗な深い緑。
そんな、翡翠色の瞳と目が合って慌てて逸らして、下書きのポスターに落とす。
「ね、ねぇ!///い、家康ならどんなイラストか、描く?」
上擦る声。
「……イラスト?」
「う、うん!マスクが良いかな?でもやっぱり注射器とかのが良いかな?」
心を落ち着かせ笑いながら、
顔をもう一度横に向けると……
ふわっ。
家康の横顔が
すぐ間近に迫っていて……
(え………)
息が止まる。
密着する身体。
椅子の背もたれに回された腕。
私の左腕に触れる手。
「……俺なら」
家康がポスターを覗き込むように、頭を少し下げた瞬間、口元にあてていたペンが、頬を掠めた。
ドキドキ………
もし……ペンがなかったら…
「…………何?」
チラッと向けられた横目。
もしチャイムが、
この時に鳴らなかったら……
授業に必死に集中しようとしても、そんなことばかり考えてしまう自分がいた。