第194章 〜エピローグ〜
頭を下げ、
ゆっくりと顔を上げる。
風一つない、静かな廊下。
それなのに、何故か目の前の青年の栗色の髪がふわっと揺れ、前髪で片方だけ隠れた瞳が現れ……
(翡翠色……?)
ほんの一瞬の出来事。
瞬きする間に、それは隠れる。
「……俺もぼっーとしてたから、ごめん」
前髪に隠れていない赤い瞳が、申し訳なそうに揺れるのを見て、
「い、いえっ!私が走ってたから!本当にごめんなさい!助けて頂いてありがとうございます」
ペコペコと、また頭を下げた。
見た所、同世代の青年。
しかし、私服姿で年上なのか、年下なのかも分からず、当たり障りのない敬語を使うひまり。
すると、
クスッ。
「………可愛い」
青年は顎に手を添え、笑う。
(え?……可愛い?)
初対面でいきなり、
面と向かってそう言われ……
腕を掴まれたまま。
それさえも気づかないぐらい……
ひまりはキョトンとして……
微動だにしないでいると……
グイッ!!
突如、身体が後ろに引っ張られ……
掴まれた腕が自然に解ける。
「ひまりに、触んないでくれる」
現れた家康。
青年からひまりを隠すように、横向きに抱き締め、睨み付けた。
「家康!?」
「っとに。昇降口に居ないから、職員室に向かってたら……早速、お仕置き決定」
ひまりは、お仕置きという言葉に反応して、慌てて腕の中から顔を出す。そして捲し立てるように、自分がぶつかって助けて貰っただけだと、説明。
しかし、家康は聞く耳持たず。
仏頂面を浮かべる。