第194章 〜エピローグ〜
パタパタと廊下に響く足音。
部誌を胸に抱え、
ひまりは職員室に向かう。
昼休憩時に、駐車場で見かけた赤い車。部活には来ずとも、学校には来ているはず。
(まだ、帰っていないと良いけど)
不在の時は、机の上に置いてそのまま立ち去るが、ひまりは今度の家康の大会のことで、少し相談したいことがあったのだ。
ガラガラッ……
「失礼します」
中に入ると、赤く染まった先生達のデスクが真っ先に視界に入る。
そして、吹き込んだ風に誘われるように窓の方に動かすと、壁に凭れ、赤いネクタイを靡かせながら、静かに立っている信長。
ひまりの声に反応して、視線が窓の景色から入り口に向かって動く。
「珍しいですね。先生が、ぼんやりして景色を見てるなんて」
「……フッ。日頃、ぼんやりしている貴様に言われるとはな。部誌か?」
コクリと頷き、ひまりは窓の前まで移動して、胸に抱いたノートを信長に手渡す。
「悪いな。今日は、用があって部活を覗く時間がなかった」
「へっ!!」
ひまりはその台詞を聞いて、素っ頓狂な声を上げ、目を見開く。
その様子に訝しげに眉を寄せる信長。
「何だ?鳩が豆鉄砲食らったような、腑抜けな顔をして」
「す、すいません!まさか先生が、謝るなんて……そ、の思ってなくて」
はにかむようにひまりは、笑う。
部活を覗けなかったのは、そもそも用事というちゃんとした理由があってのこと。尚更、ひまりは信長が詫びた事実に驚きを隠せなかった。
「家康はどうした?」
「まだ、自主練してます。後で、鍵を持ってここに……昇降口で待ってるように言われたんですけど、ちょっと先生に家康の大会のことで、相談したくて」
「大方、予想はつくがな。秀吉のところに、皆んなでご祈祷にいかないか?そんな所だろ?」
見事に的中して、ポカーンと口を開けるひまり。「何で!分かったんですか!?」と、叫びたい所だが、声さえも出て来ないほどの驚き。