第193章 〜おまけエピソード〜(4)
時刻は午後六時前。
用意して貰った、グレーのパーカー。
それを着て、キッチンに向かう。
(もう〜!いつの間に、こんな所に)
扉の前で襟元をクイッと引っ張り、中を覗き込む。
胸元に散らされた紅いシルシ。
コレが、パーカーが用意されていた理由。着ていたニットだと、このシルシが見えるからって……
何でこんな所に付けたの!って、怒ったら、涼しい顔して「俺以外の前で、着ないように」とか淡々とした口調で言われ……ハテナマークを浮かべて首を傾げれば、今度は呆れたように「鈍感」の一言。
結局、何にも言えなくなって。
理由もよく分からないまま……
(ショーツも拾ってくれたのは、嬉しいけど……でも、やっぱり恥ずかしい///)
もう最後は意識がそっちに。
脱がされる時はそんなに思わないのに、知らない間に触れられるのは恥ずかしいなんて……複雑な乙女心。
そんなこと考えている間に、鼻に届いた……夕食を準備している温かいにおい。
その香ばしい香りに誘われるように、目の前の扉を開けると、パチパチと油が飛び跳ねる音。
「ひまりちゃん。こっち、こっち」
中に入るとおばちゃんが私を見て、ニッコリ笑い手招き。
私は不自然な歩き方にならないように、意識しながら近づく。
「わぁ!美味しそう!秋刀魚の竜田揚げに、かぼちゃのそぼろ煮!これは?菊の花?」
「菊の花と青菜のお浸しよ。秋尽くしていこうと思ってね?ひまりちゃんは栗むきお願いするわ〜」
一日水に浸した栗。
それが入ったボールを受け取り、髪をくくる。
「急がないと!」
「まだ、時間あるから大丈夫よ。後、花嫁修行の一環として、例の呼び名でお願いね?」
「ふふっ。はい!お母様?」
栗むきなら、座って出来るからね?と茶目っ気に言われ、流石にそれには私も、はにかむしかなかった。